ADHDに“顔つきの特徴”はあるのか?表情や見た目に関する俗説と科学的見解

「ADHDのある人は“顔つきでわかる”」──こうした言説を目にしたことがあるかもしれません。しかし、ADHD(注意欠如・多動症)の診断は、あくまで行動観察や問診、標準化された評価ツールに基づいて行われるものであり、顔つきや見た目で判断されることはありません。
一方で、ADHDの特性として、注意の切り替えの難しさや衝動性、感情の調整の困難さなどが表情や身体の使い方に影響を及ぼすこともあります。これにより、他者からは「表情が乏しい」「視線が不安定」などの印象を持たれることがあるかもしれません。
本記事では、「ADHDと見た目の関係」について、医学的な視点とともに、俗説との違いや誤解のリスクにも触れながら解説していきます。監修は、順天堂大学医学部の非常勤講師で株式会社土屋 顧問、千葉ロッテマリーンズのチームドクターとしても活躍する、雪下岳彦(ゆきした・たけひこ)医師です。
ADHDは見た目だけで判断できるのか?
結論から言えば、ADHDは見た目だけで判断することはできません。
ADHDの診断はDSM-5やICD-11といった国際的な診断基準に基づき、問診や行動観察、スクリーニングツールなどを用いて総合的に行われます。外見や「顔つき」は診断基準に含まれていません。
また、医学的にも「ADHDの人はこういう顔をしている」と断言できるような特徴的な顔つきは確認されておらず、そのような見方は偏見やスティグマ(社会的な烙印)につながるおそれがあるため、慎重に扱うべきです。
ADHDの特性が表情に影響を与えることはある?
ADHDの人の中には、以下のような表情や目の動きの傾向が見られることがあります。ただし、これらはあくまで一部の例であり、全ての人に当てはまるものではありません。
視線が不安定になる(目がキョロキョロする)
注意の持続が難しいため、視線が周囲を頻繁に移動することがあります。
表情が乏しく見える/急に変化する
感情のコントロールが難しい場合、表情の一貫性に欠けたり、突然変わったりすることがあります。
口が開きがちになる
注意散漫や低覚醒傾向、あるいは併存する鼻疾患や姿勢の影響により、一部の人において無意識に口が開いているように見えることがあります。(こうした傾向は特に子どもの場合に見られることが多く、成人ではあまり目立たないこともあります。)
顔の筋肉がこわばる、緊張して見える
過集中や不安によって身体がこわばることで、顔の動きも硬くなることがあります。
眠たそうに見える、まぶたが重く感じられる
注意力の低下や疲れやすさによって、表情にだるさが出ることもあります。
これらはあくまで一部のケースに見られる“行動傾向の副産物”であり、顔つきとは無関係です。
次:なぜそのような表情が現れるのか?
なぜそのような表情が現れるのか?
こうした表情の傾向には、ADHDの脳の機能的特徴や神経調整機能が関係していると考えられています。
前頭葉(感情や注意をコントロールする部位)の活動が低下している
→ 表情のコントロールが難しくなったり、視線の制御がしづらくなることがあります。
衝動性・過集中の影響
→ 状況に関係なく表情が変化する、あるいは無表情になるケースも。
感覚の過敏さや鈍さ
→ 周囲の刺激に対する反応が極端になり、表情が独特になる場合もあります。
自律神経の不安定さ
→ 緊張と弛緩のバランスがとりにくく、顔や体の動きが硬くなることがあります。
こうした要因が重なって、一部のADHDの人に特有の表情が見られることがありますが、これは個々の神経生理学的な反応の一つであり、「顔つきの特徴」として一括りにすべきものではありません。
「ADHDの人はかわいい/整っている」説は本当か?
SNSなどで「ADHDの人は顔が整っている」「かわいい」といった主観的な意見を見ることがありますが、これには一切科学的根拠はありません。そうした見解は主観的印象や偏見に基づくものであり、信頼できるデータは存在しません。
ただ、ADHDの人が持つ衝動的な笑顔や豊かな表情、あるいは視線の使い方が「魅力的」「親しみやすい」と感じられることはあるかもしれません。
ですが、これはあくまで一個人としての魅力であり、ADHDの特性そのものと結びつけて一般化するのは適切ではありません。
雪下先生からのコメント
表情や見た目に関する“特徴”は、あくまで行動や神経の傾向に由来する二次的な現象であり、それだけをもって診断や評価の基準にすべきではありません。
発達特性は外から見えにくいことが多く、誤解や偏見を避けるには、相手を「特性」ではなく「個人」として見る視点が重要です。
――雪下岳彦 医師(順天堂大学医学部 非常勤講師)
誤解や偏見につながらないために
ADHDを含む神経発達症について語るとき、見た目や表情で「こうだ」と決めつけることは大きな誤解につながります。その人がどのような特性を持っているか、どのように社会と関わっているかは、外見だけでは決してわかりません。
私たちが意識すべきなのは、特性で人を見るのではなく、「その人個人」を理解する姿勢です。
参考
MSD Manuals 注意欠如多動症(ADD,ADHD)
文部科学省 今後の特別支援教育の在り方について(最終報告) 参考3 定義と判断基準(試案)等
精神神経学雑誌オンラインジャーナル ICD—11 における神経発達症群の診断について
厚生労働科学研究成果データベース 小児科における注意欠陥/多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究
監修者プロフィール
雪下岳彦(ゆきした・たけひこ)
経歴:
◆1996 年、順天堂大学医学部在学時にラグビー試合中の事故で脊髄損傷となり、以後車いすの生活となる。
◆1998 年、医師免許取得。順天堂医院精神科にて研修医修了後、ハワイ大学(心理学)、サンディエゴ州立大学大学院(スポーツ心理学)に留学。
◆2011 年、順天堂大学大学院医学研究科にて自律神経の研究を行い、医学博士号取得。
◆2012 年より、順天堂大学医学部非常勤講師。
◆2016 年から18 年まで、スポーツ庁参与。
◆2019 年より、順天堂大学スポーツ健康科学部非常勤講師を併任。
◆2020 年より、千葉ロッテマリーンズチームドクター。
◆2021年、株式会社土屋の顧問へ就任
医学、スポーツ心理学、自律神経研究、栄養医学、および自身の怪我によるハンディキャップの経験に基づき、パフォーマンスの改善、QOL(Quality of Life:人生の質)の向上、スポーツ観戦のバリアフリーについてのアドバイスも行っている。
<Edit:編集部>
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