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ダイハツ新型「ムーヴ」のデザインを分析。第一印象は「充実感」と「先代からの正常進化」

[ 2025年6月8日 18:00 ]

『Car Styling』編集長が新型ムーヴを見て感じたプラスとマイナスの意味とは?

まず全体から受ける第一印象は「充実感」。造形をカタチづくる各部分がゆったりとしたボリュームで作られ構成されており、「薄さ」や「平べったさ」、「安っぽさ」というワードが出てこない。軽自動車のデザイン開発に長けているダイハツならではの腕前の良い仕事をした。

同時に感じた第一印象は「新型は先代の正常進化版である」。これにはプラスの意味とマイナスの意味を同時に持つ。マイナスというよりも「物足りなさ」が当てはまる。プラスの意味も「納得」という感覚だ。これらについては最後に説明したい。

50年前(1972年)に創刊されたカーデザイン専門誌『Car Styling』。しばらく休刊していたが、2024年からウェブサイトで復活し、2025年3月には紙媒体として『カースタイリング 2025 Vol.1』を発行した。カーデザインに興味がある方は、ぜひ手に取ってみていただきたい。 難波 治編集長はスズキでカーデザイナーのキャリアをスタート。初代ワゴンRをはじめとする軽自動車を中心に、多くの車両のデザイン開発に携わった。その後独立し、フリーランスのカーデザイナーとして活躍。2008年からスバルのデザイン部長として辣腕を振るった後、東京都立大学教授を経て、2024年にカースタイリング編集長に就任した。

シルエットがワンモーションに近づき、先代よりも確実にモダンに見える

新型ムーヴは、外形プロポーションはややおデコが強く張っているが、ルーフ、ガラスキャビン、ボディの各領域の占有バランスの良さが全体の落ち着きを醸し出している。フロントウインドウの傾斜は先代よりも強まっているということだが、フードからフロントウインドウのつながりがスムーズで、シルエットがワンモーションに近づいた効果は大きく、確実に先代よりもモダンに見える理由はそこにある。

6月4日にフルモデルチェンジして登場したダイハツ新型ムーヴ。「カスタム」が消え、標準スタイルのみのラインナップとなった。
こちらは先代ムーヴ カスタム。

またノーズから後端まで流れるサイドキャラクター、飛行機の垂直尾翼のように切り上がるDピラーなどから受ける印象は、先代ムーヴのスタイリング上の特徴をうまく活かし、ムーヴとしての連続性、継続性を持たせている。

この新型からリヤドアはスライドドアとなったが、スライドの機構は軽自動車の枠の中でスタイリングをする上でかなり制限を生むのであるが、それを感じさせない仕上がりになっているのは見事である。

ムーヴで初めての採用となったリヤスライドドア。サイドビューへの影響も大きい。

ノーズ部は大きくラウンドし、十分な後退角をもったヘッドランプと左右で切り上がりランプ下辺に続くグリルの下縁キャラクターラインが、実物以上にフロント周りをラウンドさせてサイドへつながっているように演出させている。Aピラーから前のこのフロントまわりのスタイリングが創り出すボリューム感と充実感は優れている。

フロントの印象は先代のカスタムの流れに近くスポーティである。しかし、グリルから切り上がってヘッドライトと一体につながるグラフィカルな意匠はすでに多くのブランドで使用されている手法であり、独自ではない。ここは新型の商品コンセプトに沿い、確実性を優先させたのかもしれない。

新型ムーヴのフロントフェイス。ヘッドライトとグリルの一体感が強調されている。

Aピラーの付け根・フェンダーの上部の膨らみと影が特徴だが、これこそ軽自動車のスタイリングを行なうときの造形のやりくりの結果生まれる独特の意匠とも言える。十分に造形寸法をもらえない軽自動車の造形は車両全体に工夫があふれているが、このフェンダーもそのひとつ。サイドのドアショルダー面とフェンダーの膨らみとの嵌合部の工夫だ。

ルーフ部分の厚みも全体バランスの中で功を奏している。剛性確保のプレス要件やドアガラスの共用などの条件が苦しかったとのことだが、この「厚み感」は良い方に生きている。

新型ムーヴ RS

リヤはムーヴの証である縦長のテールランプから脱却している。先代まではその縦長テールランプの位置取りの影響で、どうしてもランプ+バックドア+リヤバンパーといういかにもバンのドアという組み合わせになっていたが、新型はリヤもサイドから連続する造形パートとして扱い、またフロントと呼応する造形の反復も利用した。

ボディサイドは適度なプランビューカーブの絞りを加えており、前述のフロント部のラウンドまでとはいかないが、リヤへもうまく印象を回し込んでいて、リヤクォーターで見る新型のスタンスは優れているように見える。

新型ムーヴ Xのリヤビュー。ボディカラーは新色のグレースブラウンクリスタルマイカ。
先代ムーヴ カスタムのリヤビュー。

インテリアはやや従来的だ。ただし量感も整理されて破綻のないバランスの取れたインパネとドアトリムは充実して、品質感を感じる良くできたデザインである。今回設定した世代層を考慮した確実なデザインだ。CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)も同様にその目的地は同じ。落ち着いた色と緻密に考えられたファブリックや加飾も質感高く出来上がっている。

新型ムーヴ RSのインパネ。
新型ムーヴ RSのドアトリム。

充実感と存在感を持つスタイリングはさすが。ただ、個人的にはインパクトのある提案も欲しかった

今回ダイハツはムーヴに対して、クルマのある生活・人生を続け、よくわかっている目利きユーザーに対して、これからもしっかり長く使い続けていただくクルマとして、手を抜かない堅実なデザインをしたと発表した。まさにその目標値を達成したような充実感と存在感を持つスタイリングであると感じたし、隅々までしっかりと計画され作り込まれている。良い商品であると思う。

1995年に登場した初代ムーヴ。

しかし、個人的には冒頭で触れたように「納得」と少しばかりの「物足りなさ」が入り混じったのも事実である。ここまで触れてきたスタイリングの印象は「納得」部分であり、流石というよりほかはない。

ダイハツ・ムーヴはミラとともに軽自動車を再興させ、堂々と牽引してきた。その後背高系にも乗用系にも車種が増え、元祖はその存在意義が薄れてきている。これはダイハツだけでなくスズキも同様だ。振り返れば、その時代背景や社会の雰囲気などにとても高い感度で、新しい生活感や軽自動車の意義や佇まいをインパクトをもって提案してきたブランドがムーヴだとすれば、7代目の登場は私の個人的期待感からすれば、どこか“惜しい”と映ってしまったのである。

今回は発表会場で照明の下での屋内展示だったため、すべてのスタイリングの印象は限定的だとお断りしておく。後日屋外の外光の下でムーヴを見る機会が訪れるはずであり、その時に改めて内外ともにスタイリング評価をさせていただきたいと思う。

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