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強すぎる王者の進む道 「ヒリヒリするような試合」望む井上尚弥 元王者との対戦は?

[ 2022年12月15日 12:00 ]

4団体統一王者となった井上尚弥はベルトを抱えてガッツポーズ(撮影・島崎 忠彦)
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 後ろ手を組み、顔を突き出して挑発する井上尚弥を見て、米デビュー戦の記憶がよみがえった。2017年9月9日、ロサンゼルス近郊のカリフォルニア州カーソンで行われたWBO世界スーパーフライ級王座6度目の防衛戦。5回に井上の左ボディーを食らって右膝をついた挑戦者アントニオ・ニエベス(米国)が逃げ回り、井上は「来い」というジェスチャーで場内を沸かせたのだ。当時は、海外初戦で挑発パフォーマンスを見せた井上の度胸に感心する一方、せっかくの米デビュー戦なのに相手が逃げ一辺倒では、本当の強さは本場のファンに伝わらないなあと憤慨していた。

 「何しに日本へ来てるんだと。勝つ気はあるのかと」。井上もあきれ気味だった、ポール・バトラー(英国)の専守防衛スタイル。試合後の会見での「井上はディフェンスを考え直した方がいい」との“上から目線”にはさすがに笑ったが、ただ逃げるのではなく細かくステップを刻み、体をずらしてクリーンヒットをなるべく回避し、隙を突いてカウンターを狙おうとする努力は理解できたし、ニエベスと同様、井上のプレッシャーの前に手が出なかったのも仕方がない。個人的にはリングで技術を見せる選手は好きだが、カウンターに切れ味はなく、勝ち筋の見えない技術に映った。バンタム級初の4団体王座統一を懸けた一戦、それも少なくないファイトマネーを得てリングに上がるには役不足だったと言わざるを得ない。

 バトラーへの評価が厳しくなるのは、コロナ禍がなければ彼よりも前に井上と統一戦で激突していたはずの元WBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)の存在がある。カシメロ側の責任で対戦が2度中止となり、おかげで4団体統一戦に進むことになったバトラーは「今でも戦いたいか」の問いに「対戦するに値しない」と切り捨てたが、どちらをリングで見たかったかと言われれば、やはりカシメロだろう。

 カシメロは3日に韓国で行われた赤穂亮(横浜光)とのスーパーバンタム級ノンタイトル戦が2回途中ノーコンテストとなった。レフェリーが注意して試合がストップする前に赤穂の後頭部へパンチを当てていたものの、不運なダウン判定後に猛攻を浴びせてTKO勝ちできそうだったカシメロには気の毒な裁定だった。日本に入国できない事情持ちと聞くが、今後スーパーバンタム級で井上と相まみえるチャンスはあるのだろうか。バトラー戦よりも白熱した試合が期待できる一方、新階級で「ヒリヒリするような試合」を渇望する井上は、この3年間でカシメロが戦う領域を既に通り過ぎてしまったようにも感じている。(専門委員・中出 健太郎)

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