×

尚弥は最高級の「議論の余地のない王者」 PFP選考委員が見た4団体統一の夜

[ 2022年12月14日 05:00 ]

世界バンタム級4団体王座統一戦 ( 2022年12月13日    有明アリーナ )

4団体王座統一を果たした井上尚弥はラウンドガールと笑顔を見せる(撮影・島崎 忠彦)
Photo By スポニチ

井上尚弥がバンタム級初の4団体統一王者となった。4団体統一は史上9人目だが、この5年間では7人目。増えつつある、主要4団体を統一した「Undisputed Champion(議論の余地のない王者)」の価値について、伝統あるリングマガジンの「パウンド・フォー・パウンド」選定委員も務める、本紙通信員でニューヨーク在住のスポーツライター杉浦大介氏が分析した。

 近年の世界ボクシング界では統一路線がトレンドになっていることは、もう説明の必要もあるまい。フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオらがピークだった2010年代前半には複数階級制覇の方が主流だったが、最近では本当に多くの世界王者たちが「目標は“Undisputed Champion”」と口にする。

 歴史をひもといても、テレンス・クロフォードがスーパーライト級を統一した2017年以降、オレクサンデル・ウシク、ジョシュ・テイラー、サウル・アルバレス、ジャーメル・チャーロ、デビン・ヘイニーと続々と4冠王者が誕生している。この潮流のきっかけが何だったかを特定するのは難しいが、王者同士の対戦が頻繁に実現するのはファンにとっても歓迎すべき流れに違いない。

 もっとも、これだけ“Undisputed Champion”が増えると、全てが同列に扱われるのではなく、最近はより内容が問われるようになっている印象もある。4団体統一王者の中でも序列が生まれるということ。最も分かりやすい例は、6月にジョージ・カンボソスJrを下して最新の4冠王者になったライト級のヘイニーが、リングマガジンのパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキング入りを果たせなかった一件だ。

 もともと正規王者と戦うことなくWBCからの電子メール1本でライト級正規王者に昇格し、“Eメール王者”などと揶揄(やゆ)されていたヘイニー。敵地オーストラリアでWBAスーパー、WBCフランチャイズ、IBF、WBO世界ライト級王者のカンボソスに勝ち、晴れて4冠を手にしたが、それでも筆者も選定委員を務めるリングマガジンの栄誉あるPFPランキング入りは見送られた。4本のベルトを手に入れたとはいえ、テオフィモ・ロペスに大番狂わせの勝利で王座に就いたカンボソス相手の勝ち星だけでは、PFP入りを果たすには実績不足と認定されたのである。

 ヘイニーはこの裁定に激高し、リングマガジンのライト級王座をも返上して騒ぎになった。改めて振り返っても、我々選考委員の判断が誤りだとは思わないが、ただ、恐らく数年前なら、まだ珍しかった“Undisputed Champion”の勲章だけでPFP入りが考慮された可能性も高い。こういったエピソードも現代の流行の副産物と言えるのだろう。

 統一のプロセスを深掘りしても、今回の井上の軌跡は極めて価値が高いように思える。井上が下したWBA王者ジェイミー・マクドネルはその時点で6度も防衛していた実力派、IBF王者エマヌエル・ロドリゲスも今なお階級トップで活躍する好選手、WBCのドネアに関しては説明の必要もない軽量級の“レジェンド”。WBOのバトラーは少し格が落ちるものの、それでも井上が手にした4本のベルトは、それぞれの団体の王者たちに勝って得たものであり、全てがKO勝ちというのも史上初の快挙である。

 この統一戦のトレンドは終わる気配がなく、2023年もウエルター級、ヘビー級などで4団体統一王者が誕生する可能性は十分ある。こうして増えれば増えるほど、そこに到達した経緯、内容がより深く吟味されるようにもなるのだろう。そんな中でも、井上はバンタム級でずば抜けた実力を証明した正真正銘の最強王者として胸を張っていい。“Undisputed Champion”の中でも、“特に価値が大きい最高級のUndisputed Champion”として記憶されていくのではないだろうか。(スポーツライター)

続きを表示

この記事のフォト

2022年12月14日のニュース