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【コラム】金子達仁

来年4人以上が欧州で2桁得点なら 本気でW杯優勝期待

[ 2025年5月24日 11:00 ]

ブライトンの三笘薫(AP)
Photo By 共同

 あなたの股関節、可動域がおかしくないですか?――とつっこみたくなるような打ち下ろしの左ボレーで、三笘薫が今シーズンの10点目を決めた。交代出場で、同点弾。しかも相手はリバプール。まったく、お見事というしかない。

 このゴールによって、今季のいわゆる欧州5大リーグでは、4人の日本人選手が2ケタ得点を記録したことになった。三笘薫、堂安律、町野修斗、中村敬斗。スコットランドでは前田大然が16ゴールを記録している。一昔前、いや、たった1年前のことを考えても、とんでもない時代になったものだ。

 これがどれほど凄いことなのかは、5大リーグの2桁得点者のリストを調べてみればわかる。まだ全日程が終了したわけではないが、自国リーグ以外で日本以上の2桁得点者を輩出している国は、フランス、ブラジルの2カ国しかない。オランダが日本と同じ4人、アルゼンチンは3人しかいないのである。

 しかも、今回2桁得点を記録した4人の日本人選手は、必ずしも純然たるストライカー、というわけではない。むしろ、チャンスメークの能力を期待されていた選手である。実際、三笘にしても中村にしても町野にしても、過去のキャリアで2桁得点を記録したのは1度だけで、堂安にいたってはこれが初めての2桁得点だった。

 本田圭佑がケチャップにたとえたように、サッカーにおけるゴールには、理論や戦術では説明しきれない部分がある。それこそ、入るときはミスキックでも入るし、入らない時は泣きたくなるほどに入らない。

 加えて、セリエA移籍1年目の中田英寿がそうだったように、プレーの意識をより得点にシフトすることで、従来以上の得点力が生まれることもある。点を取らなければ認めてもらえない。パスがもらえない。ならば、取る――それが中田英寿の思考体系だった。サッカーの教科書に書いてあることではない。

 だが、キール2年目の町野を除くと、他の3選手はすでに十分な実績を積んでいた。点を取らなくても、仲間からの信頼を得ている状況だった。そんな中での2桁得点。それも、アシスト能力を維持した上での快挙。凄いというしかない。

 釜本邦茂が引退して長い月日が流れ、いまでは彼のプレーを見たことのある人間の方が少数派になりつつある。それでも、釜本シンドロームというか、絶対的なストライカーの出現を渇望する空気は、長く日本サッカー界を支配してきた。わたし自身、支配されてきた人間の一人である。

 ただ、これだけ得点能力の高い選手が複数生まれ、かつ中盤の構成力に陰りが出ていないとなると、考えを改める必要があるのかもしれない。相手側からすると、レバンドフスキやエムバペのようなわかりやすいアイコンが存在しているより、対処が難しいという面があるかもしれない。

 サッカーを取り巻く環境、たとえば専用スタジアムの建設に猛反発する声が噴出するこの国は、正直、まだW杯にキスをする資格を持ち得ていないとわたしは思う。それでも、現場の選手たちは、掲げた目標をもはや荒唐無稽とは言い切れない次元にまで己を高めつつある。

 とはいえ、この結果が来年も続かなければ意味はない。逆に言えば、来年のいまごろ、4人の、あるいはそれ以上の選手が欧州で2桁得点を記録するようなことがあれば、わたしは、本気でW杯優勝を期待してみたいと思う。(金子達仁=スポーツライター)

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