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【コラム】金子達仁

補強で太刀打ちできないACLEをW杯の教材に

[ 2025年5月13日 10:00 ]

サウジアラビアまで駆けつけたサポーターにあいさつする川崎Fイレブン(ロイター)

 いやあ、痺(しび)れた。ACLEの決勝ラウンド。W杯の日本戦を見ていると、興奮しすぎて脳の奥がキーンとしてくることが稀(まれ)にあるが、それとほぼ同じ感覚を味わった。特に、川崎Fがアルナスルを1点リードして迎えた準決勝の残り数分間。間違いなく、世界のどこに出しても恥ずかしくない最高のエンタメだった。

 決勝まで中2日での連戦を強いられた川崎Fに対し、決勝のアルヒラルは中3日。いささかアンフェアな条件ではあった。ただ、仮に川崎Fが負けていたら、アルサドやアルナスルが同じ立場に立たされていたわけで、今後の改善を求めていくのは当然としても、妙な被害者意識にとりつかれるのは違う気がする。

 サウジでの開催自体を問題視する声についても、気持ちはわかるが、個人的にはちょっとバツが悪い。なぜバレーボールの国際大会は日本で数多く開催されてきたのか。なぜWBCの1次ラウンドは日本で開催され、日本だけがゴールデンタイムの試合を行うのか。そもそも、なぜトヨタカップは日本で開催され、日本開催のクラブW杯ではJリーグ王者にまで出場権が与えられたのか。

 日本に財力と政治力があったから、である。

 サッカーというスポーツを生み出したのは英国だが、もはや彼らでさえ、W杯の開催権を中東の国と争って勝ち取るのは難しくなっている。かつての日本がそうだったように、サウジが圧倒的な資金を投入している以上、ACLが彼らの国で開催されるのは世の習い、というしかない。

 いまでは誰もが世界最高峰の戦いと認める欧州のCLだが、以前は国によってその熱量にだいぶ差があった。トヨタカップもまた然(しか)り。それが変わっていったのは、名勝負の積み重ねと、もう一つ、巨大化していった賞金にあった。

 大会方式を一新した今回から、アジア王者が手にする賞金はこれまでの2・5倍、1000万ドルになった。南米のリベルタドーレス杯の優勝賞金(1100万ドル)にほぼ肩を並べ、「世界3大カップ戦」といってもいい段階に達しつつある。今後、中東に世界の名手が加わる流れは一層加速していくことも考えられる。

 これは、日本サッカー界にとってはむしろ朗報ではないか。

 川崎Fや横浜Mの選手が口にしていたように、今回、Jリーグ勢と中東勢の間には個々の能力でそれなりの差があった。Jでは許される小さなミスが、即命取りになる怖さも、多くの選手が痛感したことだろう。

 そんな経験を、Jに所属していながら体感できる時代が到来したのだ。

 欧州のトップリーグに所属し、レベルの高い試合での経験を積み重ねていく意味は大きい。だが、日本人を中心としたチームで、世界の一級品たち(たとえいささか薹(とう)が立っていたとしても)と伍(ご)していかなければいけない体験も、W杯を考えれば最高の財産たりえる。

 なにより、あの圧倒的なアウェー感!戦力で相手を凌駕(りょうが)しているという前提があるアジアにおける日本代表と違い、今回のJリーグ勢は、弱者としての立場で敵地での戦いを経験した。海外でプレーする日本人選手は激増したが、あれほど絶望的なアウェーを体験している選手はそうはいない。

 W杯は、選手を買って補強することはできない。つまり、補強で太刀打ちできそうもないACLEでの戦いは、日本にとって、特に監督たちにとって、W杯へ向けた最高の教材となる。(金子達仁=スポーツライター)

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