“レジェンド”今村豊、涙の引退 現役39年に幕「いいボートレース人生だった」新設殿堂入り第1号に

[ 2020年10月9日 05:30 ]

涙をこらえながら会見する今村豊(撮影・篠原岳夫)
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 ボート界に“全速ターン”という新たな概念をもたらし、SG7Vなど輝かしい記録を打ち立てたボートレーサーの今村豊(59=山口)が8日、都内で会見を行い、現役引退を発表した。男子の最低体重の変更が決まった時から引き際を考えていたことを明かし、5着に終わった9月28日の徳山5Rがラストランだった。また、BOATRACE振興会から「BOATRACE殿堂(仮称)」の新設と、その第1号に今村が内定したことも発表された。

 ミスターボートレースが水面から去ることを決断した。濃紺のスーツに身を包んで登壇した今村。スッと立ち上がってファンと関係者に感謝の言葉を述べると、引退理由を語り始めた。

 「最低体重が51キロになった時から体調管理に苦労してきたが、11月からは52キロに変更になる。これに対して限界を感じ、今期(5~10月)限りと考えるようになった。最初は下関メモリアルでとも思ったが、9月末に徳山の記念の斡旋を頂いたので、徳山を最後にしようと決めました」

 時折、目を潤ませながら涙はこらえた。「デビューした徳山の記念で引退できた私は本当に幸せ者。いいボートレース人生だった。肩の荷が下りたようなホッとしている自分がいる。これからはゆっくりのんびり生きたいと思います」。晴れやかな表情で39年間の選手生活を振り返った。

 今村がすい星のごとく現れたのは81年。徳山で迎えた初戦でいきなり勝利する鮮烈なデビューを飾った。当時はターンマークを回る際、ハンドルを切る前にスピードを落とすのが常識だった。だが、今村はアクセルレバーを握ったまま旋回。今では当然になった“全速ターン”がボート史に初めて登場した瞬間だった。

 デビューから1期(半年)で当時最上位のA級に昇格。特別競走最短V記録となるキャリア1年2カ月でG1を制した。84年のオールスターでは同2年11カ月のSG最短優勝も達成。2つは今も破られていない。

 「プリンス」「ミスターボートレース」「レジェンド」と通り名は変化したが、第一人者の位置付けだけは変わらなかった。そんな今村が最も印象深く覚えているのは87年の平和島ダービー。「レースより当時の笹川良一会長と橋本龍太郎運輸大臣に表彰していただいたことが残っている」と満足そうに語った。

 最後までグランプリだけは勝てなかったが、後悔の念はない。「獲りたかったけど、全て獲ったら何もかもが面白くなくなりそう。これも今村豊の人生と思うし、私の夢を白井英治につないだと思っていただければ。やり残しがあったら辞めてない」と笑った。

 メニエール病と闘いながら全速ターンで現代ボートレースの礎を築いた偉大なパイオニア。水面で戦い続ける仲間たちには「ファンの方が見ていて面白いと思うレースをしてほしい」と後事を託した。一方で「お手伝いが必要な時は手伝っていきたい」と恩返しも誓った。自らの「人生そのもの」と語ったボートレース界の発展を祈りつつ、伝説の幕を下ろした。

 【コースに表れる凄み】今村の凄さは、獲得した7つのSGタイトルのコースに表れている。別掲の一覧でも分かるように、31歳までに制したSG5Vは全て3コースより外から。特に、84年5月浜名湖オールスターは6コースからのSG初戴冠。今では考えられないパフォーマンスだった。さらに10年8月の蒲郡メモリアルは予選トップ通過→優勝戦1枠で逃げ切る王道V。“アラフィフ”でも時代の変化に対応する柔軟性を見せつけた。

 ▼中道善博氏(本紙評論家)インコースから逃げて勝つ時代に、アウトコースから一気に攻め切るというボート界に新しい風を呼び起こしたレーサー。私とは正反対のタイプでしたね。常にフェアプレーで勝ち方が実に奇麗でした。陸(おか)の上では話好きで先輩、後輩を問わず、みんなに好かれていた印象です。私が現役を引退した時には、お餞別(せんべつ)を頂きました。今でも大事に取ってあります。とうとうお返しをする時が来るとは。月日の流れを感じます。評論家になって、今やん(今村豊)との対談を何回かしましたが、いつもウイットに富んだトークで楽しませてもらいました。もうできないかと思うと寂しいですね。本当に長い間、お疲れさまでした。

 ◆今村 豊(いまむら・ゆたか)1961年(昭36)6月22日生まれ、山口県小野田市(現山陽小野田市)出身の59歳。小野田工を卒業後の80年に48期生として本栖研修所に入所。山口支部所属として81年5月に徳山でデビュー。82年4月の蒲郡で初優勝。同7月のまるがめ周年でG1初優勝。84年5月の浜名湖オールスターでSG初優勝。通算8207走で、歴代7位の2880勝。優勝142回は歴代3位。G1・48V、SG7V。生涯獲得賞金は歴代2位の29億4144万6172円。90、92、04年には最優秀選手に選出。1メートル62、50キロ。血液型A。妻は元ボートレーサーで同期の真知子さん。

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