【コラム】西部謙司

W杯優勝とスーパースター

[ 2025年3月30日 15:00 ]

W杯アジア最終予選<日本・サウジアラビア>試合を終えた(右から)板倉、鈴木、高井ら(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

 2026年W杯への出場を決めた日本代表。監督、選手が「優勝」を口にするようになった。

 確かに日本は力をつけた。世界の強豪にもそこまでスーパーなチームはない。前回大会ではモロッコがベスト4だった。上下の格差は縮まっている。

 とはいえ、客観的に見れば日本の優勝という目標は高望みの願望の域を出ない。少なくとも日本以外の国々はそう思うだろう。

 W杯で優勝するチームにはその時代のスーパースターがいた。例えば1970年のペレ(ブラジル)、74年ベッケンバウアー(西ドイツ)、78、82年は大会限定ながら驚異的な活躍をしたケンペス(アルゼンチン)、ロッシ(イタリア)、そして86年のマラドーナ(アルゼンチン)。

 ただ、スーパースターを擁するチームが優勝するという流れは90年から変わっている。優勝した西ドイツにこれといった選手はおらず、マラドーナのアルゼンチンはファイナルで敗れた。しかし、決勝に出てくるチームにスーパーな選手がいるのはそれ以降も変わっていない。94年はロマーリオ(ブラジル)、バッジョ(イタリア)。98年ジダン(フランス)、ロナウド(ブラジル)、2002年は3R(ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ)、06年ジダン、10年はシャビ、イニエスタ(スペイン)、14年メッシ(アルゼンチン)、18年エンバペ(フランス)、22年のファイナルはメッシとエンバペの対決でもあった。

 現在の日本にそこまでのスーパースターはいない。実際にはスーパースターよりもチーム全体の力が重要になっているのだが、一般的な評価としてスーパースターのいないチームがファイナルまで勝ち進むイメージはないわけだ。

 W杯まではまだ時間がある。その間にスーパータレントが日本から出てこないとは限らない。

 1958年に初優勝したブラジルは17歳のペレがヒーローになったが、立役者のペレとガリンシャは開幕時にはレギュラーではなかった。大会前には無名だった若手が急に現れるというケースは珍しくない。

 だが、ペレのケースは例外中の例外といえる。98年初優勝のフランスには20歳のアンリとトレゼゲがいたが準レギュラーの扱い。イングランドのオーウェンは印象的なゴールを決めたがスーパーサブ的な立場だった。06年のメッシもレギュラーではない。

 この夏までに十代のスーパータレントが現れ、Jリーグで大活躍して欧州移籍。欧州でも活躍して2026年夏にビッグクラブへの移籍が実現したとしても、W杯の時点ではスーパースターとは言えない。現在、レアル・マドリーでトルコの新鋭ギュレルはまだ先発の座を勝ち取っていないのでスーパースターとは思われていない。これから日本に凄い若手が出てきたとしても、2026年に関してはもう間に合わないのだ。78年のマラドーナ、98年のアネルカのように最終選考で落とされた例もある。

 2026年は現在の戦力を中心に、守備的から攻撃的までふり幅の大きな戦い方を身に着け、対応力と選手層を活かして勝つ道を探るのが現実的である。スーパースターなしで決勝へ出るのはW杯の歴史への挑戦になるが、可能性がないわけではない。【終】(西部謙司=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る